東宝映画を中心に、映画のほか特撮ドラマやテーマパーク映像でも活躍した日本を代表する特技監督、中野昭慶氏が描いた貴重な絵コンテ資料の数々が、当センターとも関係が深い特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)に寄せられました。
これらの資料は、当センターが参画・協力する「日本特撮アーカイブ」の2023年度の活動で、調査と整理、保存(デジタルデータ化)が実施されました。今回は本事業の概要と成果についてご報告します。
1. 日本特撮アーカイブについて
「日本特撮アーカイブ」の活動は、特撮に関する中間制作物や資料の保全を第一の目的としています。
この取り組みは、文化庁メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業で2012年度に行った調査研究からスタートし、特撮に関係する制作関係者や有識者などによって特撮の文化的価値の検証や、特撮に関する情報や文献の整理・体系化を実施してきました。2017年度からは文化庁メディア芸術アーカイブ推進支援事業の助成を受け、資料の保管・修復のための様々な活動を行っています。須賀川市は、2021年度より、須賀川特撮アーカイブセンターに収集保存した資料の調査などを通して日本特撮アーカイブへ参画・協力しています。
2. 中野昭慶氏関連資料について
この度の調査では、東宝特撮映画で数々の作品を手掛けた中野氏の絵コンテを、実際に撮影された特撮映像と比較し内容の検証を行いました。その結果、中野氏の絵コンテには、現場で書き足されたであろう演出メモなど、実際の特撮映像の仕上がりに直結する様々な情報の数々が書き記され、それを元に忠実に映像化されていることが確認できました。
あわせて、今年度の事業では劣化が進む絵コンテ資料の調査・整理とあわせてデジタルスキャン・データ化を実施、さらに特撮の撮影技法を後世へと伝えるため、特撮デザイナーの三池敏夫氏による内容解説を行いました。
本ページではその成果の一部を公開します。なお、現在は本ページに掲載している絵コンテ資料の原本およびデジタルデータの一般公開は行っておりません。
【概要版】須賀川特撮アーカイブセンター収蔵品リスト_中野昭慶氏絵コンテ資料
【特撮デザイナー 三池敏夫氏所感】
ポスト円谷英二として(円谷英二は1970年に逝去)70年代から80年代の日本特撮を支えたのは東宝の中野昭慶と東映の矢島信男の二人でした。映画業界は斜陽の一途をたどり、厳しい条件下での製作を強いられました。そうした状況下では絵コンテを重視した効率的な進行は必然で、事前の打ち合わせで演出プランをスタッフに伝え、絵コンテを精査してスケジュールが組まれました。
今回の調査で、中野監督は絵コンテでBキャメやCキャメ(東宝では伝統的に2~3台のキャメラで同時に撮影するシステムだった)のイメージも具体的に伝え、また合成カットの指示もかなり具体的に描き込まれていることが分かりました。しかし70年代は長年の歴史を誇るゴジラシリーズに於いて最も予算とスケジュールが厳しい時代で、やむなく欠番となったカットも多かったようです。中野監督は監督に昇進したころは絵コンテすべてを自分で描いていましたが、次第に絵が描けるスタッフに任せることが多くなりました。また、スケジュールは基本的にチーフ助監督が作成していました。