特撮美術監督の渡辺明氏が残した特撮の制作現場を記録した貴重な資料の数々が須賀川特撮アーカイブセンターに収蔵されました。
これらの資料は、当センターが参画・協力する「日本特撮アーカイブ」の2022年度の活動で、調査と整理、保存(デジタルデータ化)が実施されました。今回は本事業の概要と成果についてご報告します。
4. 有識者からのコメント
氷川 竜介 氏 (明治大学大学院特任教授/ATAC副理事長)
明治大学で「特撮」の講義をすると、「すべて手作り」「現在では再現不可能な規模」に高い関心が集まります。一方、「映画のための美術セット」は完成フィルムからは全貌がつかめません。今回の写真は、スタッフたちがどんな考え方で特撮空間を作りあげたか、どんな角度で画づくりしたか、試行錯誤のプロセスが追跡できる貴重な一次資料です。色彩なども復元したことで、若い研究志望者への興味関心が増すことを嬉しく思います。
三池 敏夫 氏 (特撮デザイナー/ATAC)
渡辺明氏は怪獣デザインやイメージボードを描く一方で、自らカメラを持ち準備から撮影中まで多くのスチール写真を撮影した。美術監督という立場でなければ撮れなかった写真が多く、専門技術を持った職人たちが丁寧に特撮セットを作り上げていく様子が克明に記録されている。数十年経過したカラーポジの劣化は大きな懸念事項であったが、今回デジタルの力で色がよみがえったことは大きな成果であり今後の特撮アーカイブ事業に希望をもたらすものである。
■渡辺 明(わたなべ あきら)美術監督■
1908 年福井県生まれ。1929 年松竹京都に助監督として入社。
1942 年旧知の円谷英二の誘いで『ハワイ・マレー沖海戦』に参加、そのまま東宝へ移籍。円谷英二が公職追放中の 1948 年から 1952 年までは東宝特殊技術課の責任者を務め、円谷英二復帰後は特撮映画の美術監督として手腕を振るった。とりわけ、日本における怪獣デザインの先駆者であり、画家のアイデアや造形家・利光貞三のひな形をもとに初代ゴジラを創生した。ほかにも東宝の代表的な怪獣を手掛け、特殊兵器のデザインやマッドサイエンティストの部屋のデザインなど、特撮 SF 映画の要となるコンセプトイメージを作り上げた。予算管理は美術監督の責任であったが、「ミニチュアは極力大きく作るべし」という信念に基づいて、セット製作の井上泰幸と模型製作の入江義夫に仕事を振り分け、巨大なミニチュアセットを構築した。また円谷英二の良き相談相手として、その画力を生かしてイメージボードや絵コンテなど演出的な手助けをした功績も大きい。
1965 年『怪獣大戦争』を最後に東宝を離れ、翌年、合成・撮影技師のと日本特撮映画株式会社を設立。日活の『大巨獣ガッパ』(1967)や東映の『ガンマー3 号宇宙大作戦』(1968)に参加。『ガッパ』では特撮監督を務めた。
1999 年、91 歳で永眠。