3.修復の過程
スカイホエールの修復に至ったきっかけは、2012年に東京都現代美術館にて開催された展覧会「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」でした。展示品の一つとして公開するため、当時の姿を復元する必要があったのです。しかし修復前のスカイホエールは、現在の美しい姿からは想像もつかないほど劣化や損傷の激しい状態でした。修復を担当した原口智生氏は、スカイホエールは工程が多く手間のかかる難しい一品であったといいます。
(原口智生:監督、特殊メイクアップアーティスト。認定NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)発起人。近年は特撮ミニチュア・プロップ修復師として活動し、須賀川特撮アーカイブセンターに収蔵されている数多くの資料の修復を担当している。)
修復作業は、劣化した塗装面を全て剥がし、欠損した部分の補修を行うところから始まりました。補修にあたっては、商品化のために撮影された当時の貴重なスチール写真をもとにパーツの形状や寸法を割り出しました。バルサ材で作られた木部は胴体、垂直尾翼、主翼の一部しか残存しておらず、一から作り直さなければならない箇所がいくつもありました。
また、一部にシロアリと思われる虫食いの跡も発見されました。そのため一度、陶芸用の窯を用いてくん蒸(気体の薬品を使って殺虫・殺菌を行う処理)を行い、形状維持のために隙間に樹脂を染みこませる処置を施しました。
次に、表面に砥の粉(石を粉末状にしたもの)を塗り、磨き上げました。こうすることで木目を消して塗装がしやすくなり、かつ柔らかなバルサ材に強度を持たせることができます。これは当時、バルサ製のモデルを作る際の工法としてはスタンダードなものであったといいます。
その後、水性パテとサンディングシーラー(下塗り用の塗料)を使用して塗装の下地を固めました。
そしていよいよ本塗装です。塗装をはがした際に判明したことですが、実はスカイホエールは撮影中の劣化を補うために4回ほど色が塗り直されていたため、修復前の時点ではオリジナルの色が分からなくなっていました。しかし、胴体の底部に電池ボックスを収納するための穴があり、その穴にのみ最初に塗られた色が残されていたのです。その塗料を抽出し、特定することで、最終的に全体を同じ色で塗装し直すことができました。
こうして修復を終えたスカイホエールは無事「特撮博物館」に出品され、その後他の資料とともに須賀川特撮アーカイブセンターへ収蔵されました。
資料は時とともに劣化していきます。少しでも永く形を残していくためには適切なケアがなされなければなりません。大切に保管し、そして修復しようとした人がいるからこそ、私たちは今でも資料を楽しむことができているのです。
センターへお越しの際は、造形はもちろんのこと、ぜひその経緯や過程にまで思いを馳せながら、スカイホエールをご鑑賞いただければと思います。
《基本情報》
名 称 スカイホエール
寸 法 全長:1700㎜ 全幅:1200㎜ 全高:400㎜ (6尺モデル)
材 質 バルサ材、金属、その他
登場作品 『ウルトラマンタロウ』(製作:円谷プロダクション・TBS、放送年:1973年~1974年)
デザイン 鈴木 儀雄
制 作 東宝特殊美術課
修 復 原口 智生
【主要参考文献】
・澤村信編『オール・ザット ウルトラマンタロウ』ネコ・パブリッシング、2016年
・千葉栄編『俺たちのウルトラマンシリーズ ウルトラマンタロウ』日之出出版、2017年
・鈴木康成編『語れ!ウルトラマン 兄弟激闘編』KKベストセラーズ、2013年