3.背景画を資料として鑑賞する
当センターで保管・公開している背景画は、どの作品で使われたのか不明のものも多くあります。そのため、「あの作品のあの場面だ」と映像作品とリンクさせて楽しむことは難しいものもありますが、一方で先入観を捨てて鑑賞することもできます。あえて当たり障りない空なのか、ある空気感を生み出すための空なのかと、どんな場面で使われた背景画なのか想像を膨らませて鑑賞するのも面白いと思います。
そのような中でも映像作品とリンクさせて楽しめるものの一つが『巨神兵東京に現わる』(2012年)で使われた背景画です。当センターのホールにある巨神兵(雛型)の後ろに設置されています。見れば見るほど、人の手で描かれたというのが信じられないような、複雑で、かつ自然な、そしてドラマチックな背景画となっています。『巨神兵東京に現わる』の映像も当センターで上映を行っていますので、映像も併せて鑑賞する楽しみ方もおすすめです。
背景画を鑑賞する際には、近づいて見ることも離れて見ることもどちらもおすすめです。
遠くから全体を見ると本物の写真のように見えても、近づいてみるとスプレーガンなどで描かれた部分と筆などで描かれた部分の違いが分かります。意外にも、よく見ると粗いタッチの部分を見つけることもできます。大きい画面を早く仕上げる必要があることから、近づくと粗くても、離れて見ると美しく完成する絵を描いているのです。当センター内で近づける場所にある背景画は、触らない程度に、ぜひ近くでも鑑賞してみてください。
また、遠くからスマートフォンなどのレンズを通して見ると、背景画はより本物の風景のように見えます。離れて鑑賞する際に特に注目したいのが、光の表現です。空や雲を描いた背景画を見ていると、実際に太陽が雲の後ろ側、あるいは見ている自分の背中側に存在して、その光が見えるかのように錯覚します。島倉氏は照明の当て方、それによって表現できる太陽などの光源の位置まで考慮して背景を描いているのです。実際の撮影で背景画が使われる際には専用の照明を使いますが、島倉氏は照明がセットされる前に背景画を描き上げていることを考えると、よりその技術の凄さがわかります。センターの照明でも十分にその技術を体感することができますので、ぜひ光の表現にも注目してみてください。
また、ホールの背景画の一部は2階の廊下からも鑑賞できます。空飛ぶ乗り物のミニチュアと合わせて2階からの鑑賞もおすすめです。
当センターで見ることができる背景画は、すべて島倉氏の作品です。2階のミニチュアセットの壁や収蔵庫の中にも作品を見ることができます。センターで見られる背景画は絵画としても十分楽しめるようなものばかりですが、職人の技術と努力によって生み出され、特撮作品の中で重要な役割を担っていた資料としても、鑑賞してみてはいかがでしょうか。
《島倉二千六氏プロフィール》
1940年10月5日新潟県に生まれる。中学では木版画部に所属し数々の賞を受賞。中学校卒業後に地元の看板屋を経て上京し、独立プロダクション(中央映画撮影所)で背景スタッフとなる。1959年に東宝特殊技術課に入り背景スタッフとして各作品に携わる。1982年に独立し「アトリエ雲」を設立する。『ウルトラQ』(1966年)、『宇宙刑事ギャバン』(1982~83年)、『さよならジュピター』(1984年)、『まあだだよ』(1993年)、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)、『犬神家の一族』(2006年)、『巨神兵東京に現わる』(2012年)などで背景として活躍。近年では舞台や博物館などでも活躍の幅を広げる。
【参考文献】
・東宝ゴジラ会『特撮円谷組 ゴジラと、東宝特撮にかけた青春』洋泉社、2010年
・島倉二千六『僕らを育てた背景のすごい人』アンド・ナウの会、2014年
・「特撮の匠」取材班『特撮の匠 昭和特撮の創造者たち』宝島社、2017年
・島倉二千六『特撮の空 島倉二千六、背景画の世界』ホビージャパン、2021年