須賀川特撮アーカイブセンター

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【収蔵資料紹介③】島倉二千六氏の背景画

【収蔵資料紹介③】島倉二千六氏の背景画
須賀川特撮アーカイブセンターのホールや2階ミニチュアセットの壁を彩る背景画。これらを描いた島倉二千六(ふちむ)氏は、円谷英二監督の時代から現在まで現役で活躍する背景画家です。中でも雲を表現する技術の高さから「雲の神様」としても知られています。今回は島倉氏の作品とその仕事に対する姿勢についてご紹介します。

2.背景画の職人、島倉二千六氏

島倉氏は円谷英二監督が活躍していた時代から特撮の背景として活躍し、特に雲の描写に優れているため「雲の神様」として有名です。しかし、特撮の世界に入ってすぐに雲を描き始めたわけではありません。子供のころから版画に親しみ、その画才を開花させていましたが、当時の撮影の現場では厳しい師弟関係も残っていたため、10年間ほどは雲を描くためのスプレーガンなどを持てず、その下の山などを筆や刷毛などで描くことしか許されなかったといいます。その中でも、師匠の描く雲を見ながら「自分ならこうする」とイメージトレーニングを重ねていたそうです。雲を描くようになった島倉氏は、師匠が描く雲以上に、より立体感や奥行きのある本物らしい雲を目指しました。

【展示用背景画 作:島倉二千六、使用展示:井上泰幸展(2022年)、材質:板材・キャンバス・アクリル絵の具】
空だけでなく下の街並みもリアルで、よく見ないと写真と間違えてしまいそうです。

今では雲の描写で右に出る人のいない島倉氏ですが、山や麓の景色など、雲以外のモチーフも得意としています。富士山は中でも十八番で、資料を見なくても描くことができてしまうそうです。山などの原風景を得意とする理由には、島倉氏の故郷の存在があります。島倉氏は新潟県の自然が豊かな水原町(現・阿賀野市)で生まれ育ち、子ども時代はよく風景をスケッチして楽しんでいたといいます。日ごろから自然に囲まれていたことに加えて、島倉氏の観察眼が今の背景画につながっているのでしょう。ちなみに、須賀川市出身の円谷英二監督からは、故郷が近いということで親しみを持たれていたようだといいます。

【背景画〈※現在非公開〉 作:島倉二千六、使用作品:非公開、材質:板材・キャンバス・アクリル絵の具】
遠くの山は霞み、近くの山肌からは岩の質感が伝わってきます。山々の雄大さが感じられます。

島倉氏の仕事は、「正確で速い」ことでも有名です。監督や美術監督からの指示を受け、決められた時間内で描き上げます。相手の欲しがっている背景を汲み取る力に優れ、指示に対して自分の解釈を勝手に足すようなことはしません。描き始めれば、途中で離れた場所から全体像を確認せずとも、完璧な背景を描き上げてしまいます。相手のイメージ通りかそれ以上の背景を、迷わず一気に描き上げてしまうのです。島倉氏と仕事をともにした人々は皆、島倉氏の人柄や仕事への姿勢も素晴らしいものだと語ります。普段から空を観察し写真を撮りためて空や雲のアルバムを作り、打ち合わせに活用するなど、より良い仕事のための努力を惜しまないといいます。島倉氏が多くの人から信頼され数々の仕事をしてきた理由には、技術だけでなく仕事に対する真摯な姿勢もあるのです。

島倉氏の手掛けた作品には、目立たず映像にうまく溶け込む背景画はもちろんですが、その反対ともいえるような「表情のある」背景画も数多くあります。映像作品の各場面で空気感を生み出す、重苦しい暗雲や燃えるような夕焼け、神秘的な惑星など、そのモチーフは様々です。島倉氏自身は、描き手にゆだねられるような創造的なモチーフもやりがいを感じて楽しいといいます。どんなモチーフでもどんな要望でも期待以上の出来に仕上げてしまう島倉氏の技術と努力が、背景画の資料には詰まっています。

【惑星パネル  作:島倉二千六、使用作品: 不明、材質: 板材・アクリル絵の具】
陰影表現によって表面に光沢があるように見えていますが、近づくと絵具のマットな質感がわかります。

 


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