須賀川特撮アーカイブセンター

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【収蔵資料紹介 番外編】ミニチュアセット

【収蔵資料紹介 番外編】ミニチュアセット
第1回、第2回と、センター収蔵庫の資料を取り上げてきた収蔵資料紹介コラム。今回は番外編として、センター2階のミニチュアセットについてご紹介します。写真撮影スポットとしても人気の高いミニチュアセットですが、そこに施された工夫の数々を知ることで、より深く、また新たな見方で鑑賞することができます。

1.ミニチュアセットにみる特撮技法

須賀川特撮アーカイブセンターの2階には、ミニチュアセットが配置されています。このセットは特撮美術監督である三池敏夫氏によって設計されたもので、建物が並ぶ町の雰囲気と、畑や山が広がる田舎の雰囲気を同時に楽しむことのできる構成が魅力となっています。

手前には住宅街が、奥には緑豊かな風景が広がる

三池氏によるミニチュアセット プラン図

素朴な景観のこのセットには、実はいくつもの特撮技法が駆使されています。

まず注目したいのは、使用されているミニチュアの大きさです。セットをさまざまな位置から観察してみると、ミニチュアの大きさがそれぞれ異なることに気がつくかもしれません。例えばミニカーを比較すると、セット前方にある軽トラックはセット後方の乗用車に対して明らかに大きなスケールのものが使われています。また建物についても、手前の一軒家の方が奥の4階建てのビルよりもサイズが一回り大きくなっています。

最もこの特徴が顕著なのはセット中央にまたがる舗装道路です。セットの後方から見るとよく分かりますが、この道路は道幅が一定ではなく、奥へ進むほど段々と細くなっていきます。

実はこのセットでは、手前に大きなものを、奥に小さなものを置くことで遠近感を強調し、実際の距離以上に奥行きを感じさせるという「強遠近法」が用いられているのです。これは、撮影現場などの広さが限られた空間の中でミニチュアセットにリアリティを持たせるために使われるテクニックであり、緻密なデザインと配置が成せる技となっています。

 

なお、上の写真をもう一度よく見てみると、建物のミニチュアの裏面に当たる部分が写っているのですが、装飾が施されていなかったり、壁が付いておらず空洞になっていたりすることが分かります。ミニチュアは基本的にカメラに映る面を作り込めば映像として十分成立するため、裏側はつくりが簡素になっているのです。またそうすることで、限られた制作期間内に効率よく多くのミニチュアを作ることができます。

セットの正面から見た様子
建物が全く違和感のないつくりとなっていることがわかる

こちらも「強遠近法」と同様に、カメラを通して決まった方向から撮影するという前提があるからこそ可能となるテクニックといえるでしょう。

 

また、ミニチュアセットの後ろに配置されたホリゾント(背景画)も注目したいポイントです。

この青空に浮かぶ雲は島倉二千六氏によって描かれました。島倉氏は映画・ドラマ・演劇などの背景美術に長年携わっており、特にその卓越した雲の描写力から「雲の神様」とも呼ばれています。

この大きな背景画によって、室内にいながら晴天の下で町の景色を眺めているような気分を味わうことができるようになっています。

 

では、これらの特徴を踏まえた上で、実際にミニチュアセットを撮影してみましょう。

このセットには撮影におけるベストポジションがあり、そこには1枚のガラス板が設置されています。そのガラス板を通してセットの写真を撮影するのですが、実はそのガラス自体にもある細工が施されています。ガラスの上部には空の絵が描かれており、ガラスの向こう側に見える部屋の天井をちょうど覆い隠してくれます。すると撮影する際に、手前のガラスの絵と奥のホリゾントの絵が上手くつながり、画面の隅まで広がる大空が現れるのです。

これは「グラスワーク」と呼ばれ、室内のスタジオであっても高く広がる空を表現することのできる技法になります。

 

このセットは俯瞰ではミニチュアの大きさの違いを楽しめますが、目線を低い位置へと下ろし撮影することで、自然な奥行きをもった風景を楽しむこともできます。

そしてミニチュアセットとホリゾントとの間には見学通路が設けられています。通路に人が立った状態でガラスを覗くと、まるで町に巨大化した人間が現れたかのような写真を撮影することが可能となっています。

 

 


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