須賀川特撮アーカイブセンター

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【収蔵資料紹介①】戦艦三笠

【収蔵資料紹介①】戦艦三笠
須賀川特撮アーカイブセンター収蔵庫でも大きな存在感を誇る「戦艦三笠」。須賀川市出身の円谷英二監督が最後に特撮監督を務めた長編映画『日本海大海戦』で使用されたミニチュアです。今回は「戦艦三笠」の、その概要と修復作業についてご紹介します。

2.「戦艦三笠」の修復

「戦艦三笠」が再発見されたことを受け、ミニチュアの調査・修復が2016年から須賀川市内で実施されることとなりました。調査では、艦体内部の状態を確認するため「戦艦三笠」の上甲板を取り外し、当時ミニチュア制作を担当した関係者へのインタビューも行いながら全体の状態を確認しました。このとき、撮影に使用した人形や副砲、リード線、紙片、燃えた木片などが艦体内部から発見されたほか、撮影終了後に展示のため表面の塗装を塗り直していたことが分かりました。

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「戦艦三笠」調査の様子

 ミニチュアの修復にあたっては、資料の性質や保存状態を考慮したうえで、どの状態・どの程度まで修復するのかという点を十分に検討する必要があります。例えば、撮影当時の状態に復元するといっても、撮影前の状態または撮影後の状態のどちらに復元するのかという点が課題となります。今回は資料の保存状態が良かったため、明らかに破損している部分のみを修復し、制作当時の風合いが現れている部分は残しながら、“撮影前、ミニチュア完成直後の状態”に復元することを目標としました。

方針が決まったのち、実際の修復作業は須賀川市内で2018年から2年をかけて実施されました。船体に施された塗装をはがしていくと、下から撮影当時の塗装が発見されました。さらに撮影当時の塗装を剥がした下からは、船体の曲線が木材を湾曲させ隙間なく組み立てることで表現されていたことが分かり、技術力の高さが分かるように船体の左側半分は塗装を行わない形で復元することとなりました。

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「戦艦三笠」船体側面

 表面の塗りなおし前の下準備として、表面の剥がれを防ぎ補強するための下地処理を行い、表面の木目を消すためのパテを乗せ、ローラーやハケで船体表面のざらざらとした質感を出しました。下塗り塗料を吹き、塗料の付きをよくした上から塗料を用いて船体のグレー色を塗っていきます。全体の着色を終えたあと、次は撮影当時の喫水線を復元する作業に入ります。喫水線は船体に対し並行方向に入れる必要があるので、以前の塗料を剥がしてみえた撮影当時の位置をベースに水平方向にマスキングを施したうえで着色しました。

塗装修復を終えた「戦艦三笠」は、現在の収蔵場所である特撮アーカイブセンタ―にて細かい部分の修復が行われました。撮影当時の写真などを参考に、マストの位置やロープの張り方・色など出来るだけ忠実に再現されています。

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「戦艦三笠」表面塗装作業

3.資料の注目ポイント

 「戦艦三笠」は、制作当時の様子や撮影終了後から今に至るまでの来歴が明確であり、制作後50年を経た現在でも非常に良好な状態で現存している、特撮ミニチュアの中でも貴重な作例のひとつです。今回の調査・修復では、往年の卓越した造形技術が明らかになったとともに、その技術の高さがはっきりと見えるように船首の左側半分を塗装していません。船体の美しい曲線、それを隙間なく作り出すことのできる、「戦艦三笠」に見える東宝特殊美術課の技術の高さをぜひご自身の目で確認してみてください。

名称 戦艦三笠
寸法 高さ:1000㎜(マスト含2800㎜)
幅:1100㎜
長さ:5750㎜
1/21.428スケール
材質 木材、ブリキ、その他
登場作品 『日本海大海戦』(監督:丸山誠治 脚本:八住利雄 特技監督:円谷英二、1969年公開、東宝)
《基本情報》

【参考文献】

「平成28年度メディア芸術アーカイブ推進支援事業 日本特撮アーカイブ『戦艦三笠』ミニチュア修復・保存に向けた調査報告書」森ビル株式会社 2016年

※「戦艦三笠」の調査・修復作業にあたっては、文化庁メディア芸術アーカイブ推進支援事業の支援を受けました。


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